刑法154問目(予備)
次の事例と判旨につき、下の記述は正しいといえるか?
【事例】
甲は、手の平で患部をたたいてエネルギーを患者に通すことにより自己治癒力を高めるとの独自の治療を施す特別の能力を有すると称していたが、その能力を信奉していたAから、脳内出血を発症した親族Bの治療を頼まれ、意識障害があり継続的な点滴等の入院治療が必要な状態にあったBを入院中の病院から遠く離れた甲の寄宿先ホテルの部屋に連れてくるようAに指示した上、実際に連れてこられたBの様子を見て、そのままでは死亡する危険があることを認識しながら、上記独自の治療を施すにとどまり、点滴や痰の除去等Bの生命維持に必要な医療措置を受けさせないままBを約1日間放置した結果、Bを痰による気道閉塞に基づく窒息により死亡させた。
【判旨】
甲は、自己の責めに帰すべき事由によりBの生命に具体的な危険を生じさせた上、Bが運び込まれたホテルにおいて、甲を信奉するAから、重篤な状態にあったBに対する手当てを全面的に委ねられた立場にあったものと認められる。その際、甲は、Bの重篤な状態を認識し、これを自らが救命できるとする根拠はなかったのであるから、直ちにBの生命を維持するために必要な医療措置を受けさせる義務を負っていたものというべきである。それにもかかわらず、未必的な殺意をもって、上記医療措置を受けさせないまま放置してBを死亡させた甲には、不作為による殺人罪が成立する。
判旨は、先行行為についての甲の帰責性と甲による引受行為の存在を根拠に、甲のBに対する殺人罪の作為義務を認めたものと解される。
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